廃品のビンとタイヤでできた家々の集落<アメリカ、ニューメキシコ州>
砂漠の真ん中に、廃品のビンとタイヤだけで出来た家々の村がある。30年前から始まった「アースシップ」というプロジェクト。太陽熱を利用して電気を必要とせず、水を何回も利用して家の周りには緑の植物が茂る。廃品からできているとはとても思えないほどモダンな建築の室内とオリジナリティ溢れる家々。プロジェクトが生まれた背景から見えてくる、人と地球の新しい関係とは。(写真、文 太田康男)
砂漠の真ん中にあるエコハウスとは?(ニューメキシコ州)
低木だけがまばらに茂るニューメキシコの砂漠地帯。ここタオスは、サンタフェから北へ約100キロの地点にある人口6200人の、スキーリゾートで有名な村だ。土地の窪みに半分埋もれたその建物は、遠くから眺めると、不毛の大地に不時着した宇宙船のようだった。ガラスがきらきらと日光を反射してまばゆく輝いている。近寄ると、屋上に太陽熱利用のためのソーラーパネルが並んでいる民家であることがわかる。実は、この家は、リサイクル品を使用して建てられている。古タイヤ、空き缶、空き瓶などから造られ、電気や水を自給自足するシステムを備えたエコハウスなのだ。その名を「アースシップ」という。ここでは、200家族が自分たちのアースシップを建てて生活している。このコミュニティーは、ヒッピーや宗教関係の人たちが一時的に住んでいるものではない。環境に優しい上に、デザイン的にも美しいアースシップに魅了された人たちが、個人の住宅として建設し、全米から移り住んできているのだ。ホテルのアースシップもある。現在建築中の建物も見える。色もフォルムも様々で実に個性豊か。
基礎部分の土台や壁は、土を詰め込んだ古タイヤ。電気と水は自給自足。
アースシップは、建物の半分が地中にあるのが特徴。地面の熱で、常に一定した温度を確保するため。
基礎部分の土台や壁は、土を詰め込んだ古タイヤから出来ている。そのタイヤの壁は土と砂と藁を混ぜて作ったアドビと呼ばれるセメントで固めてある。土をつめたタイヤは、非常に重く安定しているので、コンクリートで固める必要もなければ、柱もいらない。土が、室内の保温効果を高めてくれる。南に面した窓の角度は、夏と冬の日照高度を考慮して設定されており、太陽熱を効率よく活用できる。つまり、太陽が上から照りつける夏は、その日差しを少なく、太陽が低い冬は日差しを多く受けるというもの。天井には通気孔があり、夏の暑い日には風が窓から通気孔にぬける仕組みになっている。
カリフォルニアから引っ越してきたヘルムバーガー夫妻の家を訪ねた。外は雪が積もっているのに家の中は予想以上に暖かい。暖房ではない、南向きの大きな窓から入る日差しのおかげだ。窓の内側には、野菜が育ち、バラの花が咲いている。大きなバナナの木が実をつけている。11月に植えた野菜は2月下旬には収穫できるという。再利用した空きビンは、日光に照らされてステンドグラスのように美しく変身していた。アドビ工法で作られた壁はその素材感と曲線によって、暖かいぬくもり感をかもして心地良い。ヘルムバーガーは話す。「屋上にある発電ソーラーパネルと温水用ソーラーパネルの2枚で全てまかなっています。電力も水もすべて自給自足。年に1回、200ドルの天然ガス代を買うだけです。 この家を買うために貯金を使い果たしたが、今後はずっと電気代や水道代がかからず、定年になっても安心。なにより自然をダイレクトに感じる生活に満足しています」
年間降水量が約300ミリという少なさでも、水は屋根に溜まった雨水と雪解け水でまかなえる。水を4回使うことでその需要に答えている。屋上の雨水は濾過されて貯水槽に入り、ソーラーパネルで温められてシャワーや飲み水など生活用水として使われた後、再び濾過され、室内植物に。その後水はトイレに使われ、最後は屋外の植物用に使われる。
日本でもこの住宅は可能。
アースシップ建築の考案者マイケル・レイノルズさん(61)は、そのきっかけをこう語る。大学の建築科を卒業後、バイクで旅行中にこの地で怪我をして休んでいた。ニュースでは、街や川に捨てられる空き缶による汚染や森の伐採が取り上げられており、それでは木材の代わりに空き缶で家を建てれば全て解決するのではと、ゴミ箱から缶を拾って家を建て始めたのだという。26歳の時だ。周りの者はあきれて見ていた。その後、空き缶は熱効率が悪く外観も美しくないため、古タイヤ利用という方法に行き着いた。彼が提唱するアースシップ住宅はアメリカ国内だけでなく、今やヨーロッパ、南米と世界中の人々を魅了。古タイヤは世界中どこにでもあり、土は無料で使える。水道や電気がない地域でも、だれでも低価格で建築できるため、彼から建築方法を学ぶ人々は後を断たない。「これからは、政府や会社からの供給を必要としないで、それぞれが独自のエネルギーを持ち、もっと個人が強くなるべきだ。そして身の回りの世界を壊さないで生きる。それが一番大事なこと。一般の家では石炭や石油、原子力を使い、水や空気を汚染させている。それは間違いだ」日本でもこの住宅は可能だと氏は言う。気候や土壌に合ったデザインで調節すれば、何百年も持つ住宅ができると太鼓判を押す。